「あとで言っておこう」
そう思いながら、結局その日も言えなかった。
ナースステーションで、後輩の背中を見送って。
「まあ、私がやっておけばいいか」
そうやって、自分で仕事を引き取ってしまう。
そんな日、ありませんか?
私も、ずっとそうでした。
そして、言えなかった自分を、家に帰ってから責めていました。
「なんで、ちゃんと言えなかったんだろう」
「もっと先輩らしく言えばよかった」
そう思いながら、また次の日を迎える。
これは「上手な後輩指導のコツ」の記事ではありません。
看護師33年。
後輩に強く言えないまま来た私が、50代になって、少しだけ楽になった話です。
言えないまま、自分の仕事だけが増えていく
気づいたことがあります。
「言わない」を選ぶと、そのぶん自分の手が動くんです。
確認をもう一回する。
片づけを代わりにやる。
記録をあとで確認する。
そうやって帰りが遅くなって、家に着くころにはくたくた。
それでも、
「言わなくて済んでよかった」と思っている自分がいました。
今思えば、
自分の時間を差し出して、気まずさを避けていたんだと思います。
その場の空気は守れたかもしれない。
でも、その分、自分が少しずつ疲れていきました。
言えないのは、優しすぎるからではありませんでした
ずっと、自分の性格の問題だと思っていました。
気が弱いから。
嫌われたくないから。
相手を傷つけたくないから。
良い人でいたいから。
でも、いま振り返ると、それだけではなかったと思います。
人が足りない現場では、
一人ひとりがギリギリで働いています。
だから、
「注意する」ということが、
「相手との関係が悪くなるかもしれない」
「辞められたら上司に私が怒られる」
と、頭の中でつながってしまう。
そうなると、口が重くなるのも無理はありません。
だから私は、
「言えない自分はダメなんだ」
と責めるのを、少しやめることにしました。
自分の性格だけが原因なのではなく、言いにくくなってしまう環境もある。
まずは、そこを認めることから始めました。
私が変えたのは、注意する前の「ひとこと」だけ
言い方の本を読んだこともあります。
「相手を否定せずに伝える」
「私はこう思う、と伝える」
頭では分かります。
でも、いざその場になると、言葉が出てこない。
そこで私が変えたのは、たったひとつでした。
注意する前に、先に聞く。
「これ、どこで迷ったの?」
それだけです。
すると、
「時間がなくて焦ってしまって……」
「この手順、自信がなかったんです」
そんなふうに、後輩のほうから話してくれることがあります。
そこまで聞けたら、
「じゃあ、ここはこうしたほうがいいかも」
と、指摘ではなく相談の続きとして話せます。
私にとっては、
注意するより、聞くほうがずっと言いやすかった。
これには自分でもちょっと驚きました。
特別な指導技術ではありません。
ただ、
「言う」から「聞く」に順番を変えただけ。
相手によって、言いにくさは違います
同じ「伝える」でも、相手によって重さが変わります。
入ったばかりの新人さんには、まだ言いやすい。
私が特に難しいと感じていたのは、何年か経験を積んだ後輩です。
もう一人前だと思われている。
そんな相手に、
「今さら私から言われるのは嫌だろうな」
と考えてしまう。
でも、そんなときこそ、
「これ、どこで迷ったの?」
と聞いてみる。
できていない前提で話すのではなく、
「何か理由があったのかな?」
という気持ちで聞く。
それだけで、自分の中の「注意しなきゃ」という力みが、少し抜けました。
それでも、うまくいかない日はあります
正直に書きます。
これでいつもうまくいくわけではありません。
忙しい日は、聞く余裕そのものがない。
相手が身構えていて、言葉が届かない日もあります。
そんな日は、
「今日はここまで」
と、いったん置くこともあります。
ただし、患者さんの安全に関わることや、すぐに対応が必要なことは別です。そこはその場で伝える。
それ以外の、
「今すぐじゃなくてもいいこと」
については、無理にその場で全部解決しなくてもいい。
33年やってきて、これも大事なことのひとつだと思うようになりました。
そして、
言えなかった日の自分を、必要以上に責めない。
これも、50代になって覚えたことです。
後輩のためだけではなく、自分のために
言えないままだと、仕事は自分に戻ってきます。
その分、帰りが遅くなって、休む時間が削られていく。
私は長いあいだ、それを我慢だと思っていました。
でも、違ったのかもしれません。
我慢していたというより、自分の時間を静かに手放していた。
後輩に伝えることは、後輩のためだけじゃない。
自分の時間や体を守ることでもあるんだなと、50代になってようやく思えるようになりました。
言うことが怖い、ではなく、
「聞くことから始める」
なら、私にもできる。
そう思えたことが、一番大きかったです。
今日は、これだけで十分
今日やることは、ひとつだけ。
次に「言おうかな、どうしようかな」と思ったとき、
「これ、どこで迷ったの?」
と、先に聞いてみる。
それだけです。
注意しなくて大丈夫。
その場で全部解決しなくても大丈夫。
まずは、聞いてみるだけ。
私も、そこから始めました。
看護師33年。
後輩を育てることも大事だけれど、
これからは、
自分の時間も、自分の身体も、同じくらい大事にしていきたい。
そう思っています。
「頑張る」だけじゃなく、
「抱え込まない」ことも覚えていきたい。
50代。
まだまだ働くからこそ、
人を支える私も、自分を支えてあげたい。
そんなふうに、少しずつ変わっていけたらと思っています。
「自分が休んだら迷惑かな」と、休みを後回しにしてしまう方へ。
私自身が「休むこと」を考え始めたきっかけも書いています。



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